高野秀行

現実には、難民の特徴は、驚くことに「表情が明るいこと」だ。カメラを向けると、女性たちがにこっと見返してくる。ソマリ人はたいがい写真が嫌いで、ましてや女性はムスリムでもあるし、絶対に顔を隠すか、すごくこわばった表情になる。私が一ヵ月半の間に撮った写真の中で、女性の朗らかな笑顔は難民キャンプのものだけだ。 なぜ明るいかというと、彼らはイスラム系カルトのアルシャバーブが支配し、食べるものもない土地からなんとか脱出して、やっと安全で食べ物もある場所にたどりついたからだ。ホッとしているのだ。 でも、そんな笑顔の写真を出したら誰も援助してくれないし、新聞や雑誌、テレビとしても、インパクトに欠ける。だから、苦労して、不自然な写真や映像を流しているのだろう。 もちろん、私だって、難民の人たちに食料が行き渡ってほしいから、「だから援助するな」とは言わない。しかし、情報操作あるいは捏造があまりにもひどいのではないか。